広島高等裁判所 昭和34年(う)224号 判決 1960年3月08日
被告人 寺井信義
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役一年に処する。
但し四年間右刑の執行を猶予する。
被告人より金一、二九九、〇七四円を追徴する。
理由
一、論旨第一、二点について
しかし原判決挙示の証拠を綜合すれば、原判示第一の一に記載してあるように、被告人が崔致根外二名と共謀の上、朝鮮人民共和国(以下北鮮と略称する)との間の貨物の輸出入については法令に定める通商産業大臣又は外国為替公認銀行の許可或は承認が得られないので、大韓民国との間に貨物を輸出入するように装つて、原判示のような手段方法により、原判示貨物について、所轄銀行及び税関の各係員を誤信させて輸出認証並びに輸出許可を得た上、右貨物を北鮮に密輸出した事実を首肯することができる。そして右のような認証並びに許可は重大且つ明白な瑕疵ある行政行為であつて実質上無効なものであることが明白であるから、たとい形式上税関の輸出許可があつたとしても被告人等の輸出行為は関税法第一一一条第一項に規定する無許可輸出に該当するものと解するのが相当である。なお原判決が原判示第一の二の行為について関税法を適用しなかつたのは、税関職員が該事実について関税法第一三七条に基く告発をせず(記録八二丁以下告発書参照)従つて検察官がこの点について起訴しなかつたためと解される(記録第六二丁及び関税法第一四〇条一項参照)から、何等異とするに足らない。されば原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。
二、論旨第三点について
所論は量刑不当を主張するものである。よつて記録を検討してみるに、原判示第三の行為は従犯であり、又同第一の行為は崔致根外二名との共同正犯であるが、その主犯はむしろ崔致根及び林鳳竜の両名であり、被告人は右両名に体よく利用された形跡が顕著であるのみでなく、該取引によつて何等得るところなくむしろ相当な損失を蒙つていること、被告人は相当高度な教養を身につけており、本件を除いて過去の経歴に非難すべき点なく家庭も亦健全なものであることをそれぞれ首肯し得る。以上の事情の外記録に現われている各般の情状を綜合すれば、被告人に対しては今回に限り刑の執行猶予を与えるのが相当と考えられる。してみれば被告人を懲役一年の実刑に処した原判決は量刑酷に失し破棄を免れない。論旨は理由がある。
よつて刑事訴訟法第三九七条第一項第三八一条を適用し原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に則り直ちに判決する。
原判決の認定した事実中、原判示第一の一の中、外国為替及び外国貿易管理法違反の点につき同法第四八条第七〇条第二二号、輸出貿易管理令第一条第一項第三号、刑法第六〇条、関税法違反の点につき同法第一一一条第一項刑法第六〇条、右につき同法第五四条第一項前段第一〇条(関税法違反の刑に従い懲役刑選択)、原判示第一の二の事実につき前記管理法第五三条第七〇条第二二号、輸入貿易管理令第四条第一項(懲役刑選択)、同第三の事実につき出入国管理令第二五条第二項第七一条刑法第六二条第六三条第六八条第三号(懲役刑選択)を各適用し、更に併合罪の加重につき同法第四五条前段第四七条第一〇条、刑の執行猶予につき同法第二五条第一項、追徴(原判示第一の一の罪につき)につき関税法第一一八条第二項を各適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 村木友市 牛尾守三 高橋正男)
(参考)
主文
被告人寺井信義を懲役一年に、
被告人宗仁憲を罰金二万円に、
被告人滝原誠一・同浜田教道・同篠田滝雄・同樫山武雄・同味呑九一を各罰金一万円に、
それぞれ処する。
右罰金を完納することができないときはいずれも金二〇〇円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。
被告人寺井信義より判示第一の一の関税法違反罪につき一二九万九〇七四円を追徴する。
被告人滝原誠一・同浜田教道・同篠田滝雄・同樫山武雄・同味呑九一より判示第四の関税法違反罪につきそれぞれ金五万二二二六五円を追徴する。
訴訟費用中国選弁護人白川彪夫に支給した分はこれを七分し、その一を被告人味呑九一・その一を同宗仁憲の各負担とする。
理由
(原判決の罪となるべき事実)
第一、被告人寺井信義は、崔致根・林鳳竜と共に、朝鮮人民共和国(以下北鮮と略称する)へ貨物を輸出し同国より貨物を輸入して巨利を得ようとしたが、同国との間の貨物の輸出入については法令上定める通商産業大臣又は外国為替公認銀行の許可或は承認が得られないところからこれを大韓民国(以下南鮮と略称する)との間に貨物の輸出入をするように装つてその目的を遂げようと企て、山口清に対しその情を明かしたうえ同人を船長として雇入れ、ここに右四名は共謀のうえ、
一、右被告人等が輸出する貨物とは無関係で且つ外貨を伴わない輸出者黎明商事株式会社名義の外貨買取済証明書を入手してこれを利用し実際は別表記載の貨物を標準決済方法によらないで北鮮へ輸出するものであるにかかわらずこれを秘し昭和三一年一一月二二日頃外国為替公認銀行である日本信託銀行大阪支店に対し、右貨物を前記会社を輸出者として標準決済方法により南鮮に輸出する旨の虚偽の輸出申告書を提出し、情を知らない同銀行係員をしてその旨誤信させたうえ実質上は無効な認証を為さしめ、次で同月二六日頃博多税関支署に対し右認証済の輸出申告書を提出して同様同署係員を欺き実質上無効な輸出許可をさせ、翌二七日頃福岡県博多港において北鮮向けに仕向けた第八金比羅丸(総屯数三三・四四屯江口儀一郎所有)に前記貨物を積載し、被告人山口清が船長となり同寺井信義はこれに同乗して北鮮へ向け運航到達し、以つて法定の除外事由がないのに、通商産業大臣の承認を受けることなく、且つ税関の許可なくして、右貨物を北鮮に密輸出し、
(以下略)